万葉の花々1《秋の七草》
【秋の七草】

秋の七草に選ばれている花は8月末から咲き始めます。これは旧暦の秋である7月~9月が、現在は8月末から11月に当たるためです。夏の終わり頃から咲く、紫や黄色などの愛らしい花々を鑑賞し、楽しむという意味が込められています。一般に広く知られる春の七草は、平安時代に選ばれました。一方、秋の七草が選ばれたのは奈良時代です。春の七草より古い歴史があります。
山上憶良(やまのうえのおくら)が詠み、万葉集に収録された和歌が秋の七草の起源と言われています。(万葉集 巻八ー1538)
秋の野に 咲たる花を 指折りかき数ふれば 七種(ななくさ)の花
萩の花 尾花(をばな)葛花(くずはな)瞿麦(なでしこ)の花 姫部志(をみなえし) また藤袴(ふぢはかま)朝貌(あさがほ)の花
萩の花 尾花(をばな)葛花(くずはな)瞿麦(なでしこ)の花 姫部志(をみなえし) また藤袴(ふぢはかま)朝貌(あさがほ)の花
「七草の種類について」
尾花(おばな)

日当たりの良い草原や野原、空き地、道端などさまざまな場所に群生しています。昔は茅葺屋根(かやぶきやね)を作るために使用されていました。
*花言葉は、「活力」「勢力」「生命力」などです。
女郎花(おみなえし)

一方で、独特なにおいが気になる場合も。乾燥するとにおいが強くなるため、部屋に飾るときは、毎日水を取り換えると多少においを抑えられます。
*花言葉は、「美人」「親切」「はかない恋」などです。
桔梗(ききょう)

6~10月に開花する桔梗の美しい花の形は、古くから日本人に親しまれてきました。家紋のモチーフとして桔梗を使用した武将が多いことでも知られています。暑さに強く、真夏でも花を咲かせるのが特徴。霜に当たらなければ越冬可能で、翌年には再び花を咲かせます。
七草の歌にある「朝貌の花」には昼顔やムクゲなどさまざまな説がありますが、中でも桔梗が一番有力な候補とされています。
*花言葉は、「清楚」「誠実」「優しい温かさ」などです。
葛(くず)
マメ科クズ属の草花です。強い繁殖力を持ち、アジアの広範囲に群生しています。根茎で増殖し、ツルを刈り取ってもすぐに再生します。周りの木々を覆うほどの生命力があり、荒れた地でも育ちます。
8~9月に花期を迎える葛。美しい姿を楽しむため、昔から観賞用として親しまれてきました。また、根からとれる葛粉は、葛きりや葛餅などの和菓子の材料に使われることで有名です。
*花言葉は、「活力」「芯の強さ」「努力」などが挙げられます。
撫子(なでしこ)

撫子は、江戸時代に観賞用の園芸植物として栽培されていました。そのため古典園芸植物の1つに数えられます。撫子という名の由来とされる撫でたくなるほど可愛らしい花の見ごろは6~9月です。心和む魅力的な花は、昔から多くの人に愛されてきました。
*花言葉は、「純愛」「無邪気」「才能」などがあります。
萩(はぎ)

また、萩の実を粉にしたものを餅に混ぜて食べていたことや、萩の花が小豆に似ていることが、秋の彼岸に供える「おはぎ」の由来になったという話も。
*花言葉は、「内気」「柔軟な精神」「思案」などです。
藤袴(ふじばかま)

昔は池の周りや河原といった水辺に自生していましたが、現在では数が減り、絶滅危惧種に指定されました。
*花言葉は、「思いやり」「遅延」「躊躇(ちゅうちょ)」など。
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*秋と春、それぞれの七草の違いについて。
《春の七草は食用》

旧暦ではなく、新暦の1月に食すため、春の七草といってもピンときませんが、本来は2月中頃の行事でした。
いまでは、正月料理で疲れた胃腸を労り、野菜の収穫が少なくなる冬に必要な栄養を補うものになっています。七草粥には、消化を助ける、吐き気を抑える、胃を健康にする、といった体に良い働きを期待できる植物が選ばれています。
《秋の七草は鑑賞》

また、秋の七草は食用ではないものの、薬草として漢方や生薬に使われてきた草花が含まれます。風邪や胃腸不良に良いとされる葛根湯は、葛の根を乾燥させたものが主成分。桔梗は、咳を鎮める働きの他に抗炎症作用があり、喉の腫れや痛みに効くとされています。
女郎花の根には解毒・消炎作用や解熱の効果があると言われ、撫子の種はむくみを取る働きが期待できるという説があります。
疲れの出やすい秋に、日本人を目や口から癒してきたのが秋の七草です。
ソフィア