花と神話~アシ

プリュギアの王ミダスが酒の神ディオニュソスの養父を助けたことがありました。その感謝のしるしとして、ディオニュソスはミダスに何でも望みを叶えてやろうと言いました。ミダス王は金持ちで、しかも欲張りでした。
「私が触れるものが何でもみな黄金に変わるようにしてください。他に何も望みはありません。」
と言ったのでした。

神はその願いを叶えてやることにしました。ミダスは望みが聞き入れられたので大喜びしながら王宮に戻ったのですが、それでも半信半疑だったのでしょう、さっそく試してみることにしました。庭のリンゴをもいでみるとたちまちそのリンゴは黄金のリンゴに変わりました。手を洗うと、その水が金の滴になったのです。ミダス王は触れると何でも金になるという不思議な力を手に入れて満足でした。

しかし困ったことが起こったのです。パンを食べようとするとそのパンが、酒を飲もうとするとその酒が金になってしまうのでした。側にいた娘に触れると娘までもが黄金の象に変わってしまいました。

自分の愚かしさに気づいたミダス王はディオニュソスに、
「私は愚か者でした。どうぞ哀れとおぼしめして、お慈悲をおかけください。どうぞ元の身体に戻してください。」
と祈ったのです。その祈りは叶えられ、ミダス王の持っていた不思議な力はなくなり、娘も元の身体に戻ったのでした。

その時以来、ミダス王は富やきらびやかなものを嫌うようになって、田舎に住み、森林の王パンの崇拝者になりました。あるとき、パンは大胆にも音楽の神アポロンとその技くらべをしようと思いつきました。アポロンもその挑戦を受けて立ちました。パンは得意の笛を吹き、アポロンは竪琴を奏でました。パンの忠実な下僕のミダスは、それを聞いて主人の勝ちを信じ得意満面でした。ですから、審判官の山の神トモロスがアポロンの勝ちを宣言したとき、ミダスは大いに不満でそれに文句を言ったのです。

それを聞いたアポロンは、「こんな男が人間の耳をしている必要はない。」と言うが早いか、ミダスの耳を長くしたのです。耳の外側も内側も毛むくじゃら、しかも根元はぴくぴく動くのです。それはまさにロバの耳でした。
ミダスは自分の耳がロバの耳であることを恥ずかしく思い、頭にすっぽりと頭巾をかぶって人目から隠していたのですが、散髪をするときにはどうしても頭巾をとらなくてはなりません。そこで、
「お前がここで見たことを誰にもしゃべってはならぬ。もししゃべれば、おまえはしばり首だ。」
っと、散髪屋にはかたく口止めしました。人に話すなと言われれば話したくなるのが人の常です。王様の秘密を知ってしまった散髪屋は、黙っていると苦しくて苦しくてどうにもならなくなりました。仕事も手につかなくなって毎日毎日物思いに沈むようになったのです。

散髪屋はよいことを思いつきました。地面に穴を掘ってその中に向かって王様の秘密をささやくと、その穴をまたふさいだのです。その後散髪屋はすっかり元気になり、もとどおり仕事ができるようになりました。一方、側の地面には一面にアシが生え、だんだん伸びていくにつれ、
「王様の耳はロバの耳、王様の耳はロバの耳。」
と、ミダス王の秘密をささやき始めたのです。そしてとうとう国中の者に王様の秘密が知れ渡っていきました。王は、誰がしゃべったかを調べさせましたが、誰の仕業かは突き止めることができませんでした。

そして今日にでもまだ、風が吹くたびにアシは、「王様の耳はロバの耳、王様の耳は毛むくじゃら。根元はぴくぴくよく動く。」
とささやき続けているということです。
アシの花言葉は「後悔」です。

 

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